概要

近年,開発途上国で表出している環境問題は,頻発する自然災害,経済格差と貧困問題,経済発展に伴う大気質悪化,都市居住環境や自然環境の劣化,地域資源の収奪など枚挙に暇がなく,アジア地域では,多様な環境問題が複合的かつ複雑に絡み合い,そして広域的に発生しています。このような状況に対して,地球環境スケールの巨視的枠組みとしてFuture Earth(以下FE)が推進され,その中では「超学際」として専門家と利害関係者が協働して研究活動の設計を行う「Co-Design」や研究知見の創出を行う「Co-Production」が提案されており,先見性と深淵性を持ち,かつ問題解決型の新しい「地球環境学」を探求するとともに,様々な立場の人間が具体的問題を包括的に理解し,実践的研究から得られた知見や解決策を,協働して社会実装することが吃緊に求められており,地球環境学の分野で世界的な新たな潮流となっています。

 

京都大学大学院地球環境学堂・学舎(GSGES)は,2002 年の設立時から従来の学問領域の枠組みを取り払い,異分野領域を融合した研究教育活動を先駆的に実施し,地球環境問題解決のための研究成果を蓄積してきました。同時に,アジア地域における国際協働に重点を置き,ベトナムを拠点国と位置づけてハノイ理工科大学,フエ大学(フエ農林大学,フエ科学大学),ダナン大学にて海外教育研究拠点オフィスをそれぞれ設置し,調査研究・人材育成・実践活動の実績を挙げてきました。近年,活発な教育研究活動が結実し,現在,上記3大学以外にもホーチミン市工科大学,ハノイ土木工科大学,カントー大学などベトナム国内他大学との連携へと展開派生し,ベトナム国外でも,チャンパサーク大学(ラオス),王立農業大学(カンボジア),マヒドン大学(タイ),マラヤ大学(マレーシア),ボゴール農業大学(インドネシア),フィリピン大学(フィリピン)など,アジアの多くの活力ある主要大学との協働が始動しています。しかし,地球環境問題の解決に不可欠な,「異分野融合」「各大学間の協働」「研究成果の社会実装」という視点でみると,アジア地域の多くの大学は社会経済発展を主眼に置いて設立された経緯もあり,各大学間の連携は薄弱で未だ課題が多いのも事実です。環境問題解決に資する知識・技術・経験則を共有する仕組み作りをすること,および広域に発生する環境問題に対する広域的大学間連携は非常に重要かつ不可欠なものです。

本事業は,多くの協働連携を実施してきたインドシナ地域の大学との強固な連携を基に更なる空間的拡大と拡充を図り,アジア地域において地球環境学に関する「教育・研究・実践の情報共有」,「学際・国際的な人材交流」および「共同研究と成果の社会実装」の仕組みを有する「地球環境学アジア学術研究基盤」を創成することを目的とし,平成28年4月より始動した3年間のプロジェクトです。具体的には,①学際的,実践的研究を実施するためのアジアプラットフォーム(教育研究プラットフォーム)を整備した上で,②日本側拠点機関と海外拠点機関大学の研究者による共同研究チームを形成し,環境問題をテーマに研究スキームの設定と実践,およびその成果の社会実装を展開し,最終的には③アジア地域での連携による,学問領域,国家領域を超えた学術研究の基盤を創成することを目指しています。

 

アジアプラットフォームによる地球環境学の実践的展開(共同研究のCo-Design と Co-Production

GSGESでは,これまでベトナムを中心とした拠点を形成し,その後周辺国(タイ,ラオス,カンボジア)でのインドシナ地域にも範囲を拡大して重点的に教育研究活動を展開してきました。特に,本事業の前身となるJSPS研究拠点事業「インドシナ地域における地球環境学連携拠点の形成」(平成25~27年度)では,国際シンポジウムをベトナムにて毎年主催してインドシナ地域で生じている環境問題を,当該国の専門家を含む多様な利害関係者とともに討議し,問題設定し,解決に向けたスキームの設計(Co-Design)や研究(Co-Production)を行う重厚なネットワークを整備しました。また,波及的にインドシナ地域外の大学との協働が始動したこと,それらの大学からGSGESのインドシナ地域での活動への高い評価と自国での展開に対して強い要請があったこともあり,地域を更に拡充し,より実践性を高めた活動を目指しています。また,学問としての地球環境学を顧みれば,経済発展への偏重や各国の大学の縦割りのシステムが弊害となり,拠点大学間での交流,国家間での共同研究は進んでいない状況にもあります。東南アジアの主要大学が環境問題の解決に向けて連携するための「結」の役割をGSGESが担い,本事業で掲げている「地球環境学アジア学術研究基盤」を創り上げれば,アジアの環境問題解決に向けた研究成果の社会実装の実現力を備えた「超学際」の仕組みを確立することができます。

具体的には,環境課題の解決に向けた研究の設計(Co-Design)として①研究共有の場の提供,②人的資源の連携と育成,③フィールド研究の共有,の3つの軸を同時並行で推進する。研究の実施(Co-Production)については大学間(利害関係者も含む)の共同研究により研究成果の社会実装を試みます。これにより,これまでに構築した頑健なインドシナ地域ネットワークを空間的に拡充,かつ内容を発展する形で,アジア広域連携の基盤を整備することが可能になると考えています(下図,クリックして拡大)。