環境教育論分野のトレンチャー・グレゴリー(Gregory TRENCHER)准教授は、国際的な研究者チームと協力し、企業の脱炭素戦略やカーボンプライシング政策における炭素クレジット(オフセット)の活用に反対する論評論文を公表しました。本論文では、炭素クレジットが温室効果ガス排出削減の信頼できる手段ではないことを明らかにするため、現時点における科学的知見を総合的に整理・分析しました。著者らは、気候政策は産業部門からの化石燃料の段階的廃止を優先すべきであり、例外的な場合を除きオフセットの使用を認めるべきではないと主張しています。この4ページの論評論文は、本年10月に『Nature』誌に掲載されました。
この研究チームには、筆頭著者であるオーストラリア国立大学のアンドリュー・マッキントッシュ(Andrew Macintosh)教授のほか、マックス・プランク・イノベーション・アンド・コンペティション研究所、西オーストラリア大学、ペンシルベニア大学に所属する研究者、そしてポツダム気候影響研究所のヨハン・ロックストローム(Johan Rockström)博士など、国際的な研究機関の研究者が参加しました。
研究チームは、世界各国でオフセット利用を認めているカーボンプライシング制度を比較分析し、これらの制度に共通して、炭素価格が低く、排出削減を十分に促す水準に達していないという特徴があることを示しました。著者らは、このことが二つの問題を引き起こすと指摘しています。第一に、規制対象企業が遵守義務を果たす手段として、低品質かつ安価なオフセットに依存することで、化石燃料削減に資するクリーンエネルギー技術への現場投資が遅れ、産業の脱炭素化を妨げている点です。第二に、炭素価格が低水準にとどまることで、政府の財政収入は減少する一方、排出削減効果の乏しい低品質なクレジットを供給する事業者に不当な利益をもたらしている点です。
今後、トレンチャー准教授とその共同研究者、博士課程の学生たちは、現状の炭素クレジット市場の課題解決策として期待される「炭素除去」の世界的動向に注目し、研究を進めていく予定です。研究チームは、主要企業がどのように炭素除去を活用して脱炭素化を加速させているのかを明らかにすることを目指しています。
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Natureの論文
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